キョウアイ―狂愛―
サイファは、クレアを前にすると、つい口が過ぎてしまうと自分でも分かっていた。
それに最近は血に汚れている事が多い。
クレアは血を嫌う。
顔や服に血をべっとりと付けた自分を見れば、クレアはさぞ嫌悪の表情を浮かべる事だろう。
足早に城を去ろうとして、
それでもサイファは、見つけてしまった。
小さな中庭を挟んだ奥の回廊を歩くクレアを。
足を止め、吸い込まれるように歩くクレアを目で追った。
ほんの数秒。
それでも不自然な視線を感じ、クレアは長い髪を揺らして振り向いた。
そして、サイファを捕らえると、足が止まり、無表情な顔はキュッと引き締まった。
先に目を反らしたのはサイファだった。
クレアの顔は血を見て予想通りひきつった。
それで、十分よく分かった。
―――また人を傷つけたの?
そんな目をしていた。
恐れるような、蔑むような……。
目を反らしたサイファは、再び城の外へ向かい歩き出した。
――そう……
俺の手は多くの血にまみれてきた
洗ったところで罪は消えない
別に隠そうとは思わないが、クレアの瞳に浮かぶ、恐れは、サイファの胸に小さく鋭い痛みを与えた。