キョウアイ―狂愛―
「……ッチ」
サイファは忌々しげに舌打ちすると瀕死の男にすがり付くクレアの腕を乱暴に引いた。
「フォン、馬を引け!」
フォンと呼ばれた少女が素早く引いてきた馬にクレアを無理やり乗せ、サイファは血まみれの庭を去った。
「シアン!シアーーン」
クレアが必死で手を伸ばしてもみるみるうちにシアンとの距離は広がってゆく。
かすれる声で同居人を呼び、伸ばしたシアンの震える手をクレアが握りしめる事はなかった。
サイファは
自分の腕の中で半狂乱で泣き叫ぶ憎き半身が、走る馬の上でバランスを崩さぬよう
支える腕に力をいれた。
――二度と
この腕をすり抜けていく事がないように――…