キョウアイ―狂愛―
分かってはいたが、全く思うようにいかない。
アルザスにはいいように使われ、屋敷の者からは不満も漏れる。
戦地での興奮状態も冷め、少し疲れていた。
そんなサイファが門前まで歩き、待たせてあった馬に乗ろうとした時、
「サイファ」
後ろから呼び止める声。
マイメイが声の主を探すと、それはやはりクレアだった。
それでも信じがたい行動に目を丸くしていると、
クレアは小走りでサイファの前に来た。
サイファも目を疑っているようで、一言も発しない。
「……大丈夫?」
クレアは上目遣いに伺った。
「……な、に……が?」
上擦った声でそれだけ返すのが精一杯のサイファの顔を、
クレアは手で軽く触れた。
「血が……」
頬に触れた手にビクッと反応し、サイファは目を反らした。
―――この血は
「僕のじゃ……ない」
クレアの軽蔑の表情を予想しながら。
しかし、クレアの口から出たのは予想もしなかった言葉。