キョウアイ―狂愛―
「……良かった」
「え……?」
「サイファが怪我した訳じゃないのね」
安堵の表情を浮かべるクレアに、サイファはそれ以上、言葉が出てこなかった。
この間までの二人のやり取りで、こんな思い遣りの言葉を期待できる筈がなく。
マイメイもやはり驚きを隠せなかった。
「領主様に活躍をよく聞いてるの」
無機質なサイファの瞳に、クレアは答えた。
「これ」
クレアは小さな包みを差し出す。
「ローヌさんおすすめの傷薬。よく効くのよ」
他の男の名など、クレアの口から聞きたくない。
そんな男が教えた薬などいらない。
サイファに苛立ちがよぎったが、クレアの様子の違いに押され、最終的に薬の袋を手に取った。
「……何故?」
「え?」
「僕など大怪我を負い、死んでしまえばいいと思っているんじゃないのか?」
未だ解せないサイファは、クレアを伺いながらも、自嘲するような言葉を呟いた。
クレアは困ったような笑顔を作ると、
「……兄弟に対して、そんな風に思わないわ」
一言だけ返して、
「これでも、あなたが戦地へ出向く時は、いつも無事を祈っているの」
城へ戻っていった。