キョウアイ―狂愛―
「あたしが、過去を忘れてさぞかし苛立たしい思いをしている事でしょうね……」
サイファの思い出話を聞いてもさっぱりのクレアはそう言って困ったような笑みを浮かべた。
気を使っている訳でなく、自分としても腹立たしく思っていた。
過去を思い出せたら、サイファへの復讐の方法も思い付くだろう、と。
「……いいんだ」
サイファは真面目な顔でじっとクレアの瞳を覗き込んだ。
艶やかな黒髪が、気持ちよい春の風にサラサラと揺れる。
「今……君が、こうして僕の側にいる。
それだけで……」
「それだけが、僕の望みだから」
サイファに見つめられたまま、クレアは一瞬、返す言葉が見つからなかった。
目を丸く見開きサイファの真摯な思いに圧倒されていた。
「欲を言えば……」
サイファが空を見ながら言葉を続けた。
「お前を早く屋敷に連れ戻したい……かな」
苦々しく笑うサイファに、
クレアは戸惑いながらも、
「……それなら、領主様にそう申し上げてみるわ」
言うと、
「いや、僕から話すから君は何もしないでいいよ。頼むから領主にはあまり……絶対、近づくな」
慌てて止められてしまった。
サイファのあまりの慌てぶりにクレアは首を傾げた。