キョウアイ―狂愛―
――モウ少シ……ダ……
青い空が微かに白みがかった朝方。
“それ”は、遠い道のりを経て、やっとの事で目的地付近までたどり着いた。
――モウ少シデ……ヤット……!
長かった。
重い足を引きずり、痛みを堪えて、この懐かしい街へ足を踏み入れた。
人目を避け、夜中に移動を繰り返し、昼間は必死に身を潜めて。
それでも、何度かは危険な目にあった。
過去の危機と連動し、その後の行為を思い出した“それ”は唇に舌を這わせた。
しかし、そんな惨めな旅路も今日で終わりだ。
――懐かしい街―……
三十年ぶりか。
―――懐かしい路地
――――懐かしい屋敷―………
「キャアァアアアァー!!」
“それ”を目の当たりにした牛乳配達の少女が、目を見開き悲鳴をあげる。
“それ”は少女を一瞥すると素早い動きで首を締め上げ、少女が事切れるのを確認すると、石畳に叩きつけた。
―――全ク……見ルト、スグニコレダ……
少しは頭を働かせろ。
虫けらめ。
動かなくなった少女の口から流れる赤い血に視線を這わせる。
だが、“それ”は思い留まった。
もう少しじゃないか。
こんな三流品とは比べものにならない極上の品が手に入る。
“それ”はまた前を向き、もう叫ぶ事のない少女の横を通り、重い足を引きずり始めた。