キョウアイ―狂愛―
サイファは眠れぬ夜を月を見上げ過ごした。
街の住民達に怪しまれぬよう、極力、普通の人間達と違わぬ生活を送る事、
アルザスに言われるまでもなく、リドルに住まう者の古くからの習わしだった。
しかし、本来ならば夜行性であるはずのヴァンパイア達の館は、真夜中、息を潜めども、何らかの気配が伺えた。
サイファもこうしてほとんど夜に眠ることなく、窓の外の月を見上げるのを日課にしていた。
――しかし……
今宵の月はやけに高く感じる。
空気はどこまでも清んでいて、月が一段と神々しく輝いている。
月の淡く優しい光を浴びるサイファに、少し離れたベッドから、クレアの寝息が聞こえる。
欲望がより強大となる大きな月の夜とは違い、今宵の月は心もとない。
清廉とした月を見ていると何故か胸がざわめく。
欠けた月と同じ
―――満たされない……
――俺の心は……
――永遠に
サイファは自分達の永き生命に少しだけ疲れを感じていた。