キョウアイ―狂愛―
突如、屋敷の西の辺りが騒然とした。
夜が少しずつ明け始めてもベッドに入ろうと言う気の起こらないサイファが、静かに窓の外を眺めていた時だった。
夜中と言えど、常に誰かしらの気配のある屋敷の事。
サイファは少しばかり騒々しいと思ったくらいで大して気にも止めなかった。
しかし、それこそが、紅蓮の炎を背負った死神がリドルの屋敷に足を踏み入れた瞬間だったのだ。
「サイファ様…………」
マイメイの控え目な声がドアの向こうから聞こえる。
それでようやく、サイファは先程の騒ぎは何か大事が起きたのだと考えた。
問題が起きたとしても、大方は自分の耳に入る事なく解決される。
マイメイが寝室に伝えにくる事など稀だ。
この前、マイメイが血相をかえ寝室のドア越しに報告に上がったのは、クレアが屋敷から逃げ出した時だった。
今はクレアは、自分のベッドで眠っている。
「入れ」
サイファは薄絹のカーテンの中のクレアを見つめたまま、マイメイに入室の許可を出した。