キョウアイ―狂愛―




何故そう思ったのかは分からない。


だが、その考えはクレアの頭を占拠した。




もう火は、

屋敷の至るところで発生していて、煙がどんどん天井を埋めてゆく。



「なりません。クレア様は地下へ向かい、地下の抜け道より逃れるのです」




マイメイは表情の消えた顔で淡々と指示する。

使命を忠実に果たす、それ以外は考えもしない人形のように。





「あたし……、でも、ダメなの……」



――何が?




頭がぐらぐらする。


煙を吸ったせいだろうか?


床がゆらゆら揺れているような錯覚に見舞われる。


これは熱風のせいかしら……?







「…………そう言われるのでしたら……、
……仕方ありませんわ」




マイメイの投げ捨てたような呟きに、クレアは頭を押さえつつも、ハッと顔を上げた。




「サイファ様の命を受けましたが、クレア様自ら放棄なさったのですもの……」



「マイメイ……?」


火事場とはいえ、まるっきり様子の違う少女に、クレアは違和感を覚えた。





「ずっとクレア様は、最初からそうでしたわ。……サイファ様のお与えになるもの全てを拒否なさって……!」



マイメイの顔に少しずつ表情が現れ始めた。



その感情は……怨み。




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