キョウアイ―狂愛―
マイメイは銀食器のナイフを隠し持っていた。
明確な使用理由があった訳ではない。
侵入者が現れたとの報告があった時、調理場から拝借したものだった。
しかし、今になるとそれはクレアの胸に突き立てる為に持ってきたように思えた。
これで正しいのだわ。
マイメイは震える指をゆっくりとナイフから外し、足を後ろに引いた。
途端に強い力で肩を抱かれた。
「……ひっ」
思わぬクレアの行動に悲鳴が飛び出る。
しかし、クレアが絞り出したのは肯定の言葉。
「そう……これでいい。お前は正しい……」
声の主は優しくマイメイの頭を撫でるとゆっくり離れた。
「お前はもうお逃げ……」
そんな言葉を残し、
よろめきながらゆらゆらと煙漂う廊下を戻って行くクレアの背中を見つめながら、マイメイはその場に崩れるように座りこんだ。
「ハッ……ハッ……」
ガタガタと全身が震え、荒く息を吐き出す。
間違いを犯したとは思っていない。
後悔はない。
―――でも、
命(めい)に背き、サイファ様の一番大切な方を傷つけた私はもう……、サイファ様のお側に行く資格を失った……。
止まってしまった自分。
……反対に、赤い赤い血をたらしながらゆっくりと足を踏みしめ炎の向こうに消え行くクレア。
マイメイはいつまでも見ていた。