キョウアイ―狂愛―
確かにさっきあの男は爪を食い込ませ皮膚を裂いた。
痛みだって感じたのに……?
クレアは自分の腕を、信じられないと言うように凝視していた。
「やはり……記憶を失ってらっしゃるのですね。
だからサイファ様の元に戻る事が叶わなかったのですわ……」
おかわいそうに、と少女は眉を下げた。
「あなた様はリドル家の由緒正しい血を引くクレア=リドル様でございます。
三十年前の事件が起こるまではこちらで暮らしていらっしゃいました」
「事件……
三十年前……?」
(三十年前だなんて……、あたしはそんなに年とってないわ!)
「わたくしはまだ生まれてもおらず、肖像画のクレア様を拝見させていただいただけですが、サイファ様と同様、かつてと全くお変わりなく……当家の強靭な血を感じましたわ」
納得のいかないクレアをおいてフォンは一人、陶酔しているように続けるのであった。