キョウアイ―狂愛―
「さぁさぁ、うちの野菜は新鮮だよー!」
「うちのトマトはトルティア1だ!甘い甘いトマトだよ〜」
トルティアの街の市場は常に活気溢れている。
店の商品を宣伝する声があちこちから響く。
町民というものはたくましいものだ。
雑草のように生命力がみなぎっていて、どんな悲惨な状況の時だろうと、笑顔を生み出す事ができる。
「ちょいとおじさん!うちの品物どうだい?安くするよ!」
威勢のよい、店の売り子の呼び止めに、男から思わず笑いがこぼれる。
「それじゃあ、その真っ赤で旨そうなリンゴを包んでくれよ」
「あいよ!」
売り子が紙袋にリンゴを詰め込んでいく。
「この街の市場は盛んだな。街全体は荒れてるにしちゃあ、」
「そうだねぇ。あたしら町民が頑張るしかないのさ。
大きな声じゃあ言えないが、あんな身勝手な領主にはさっさと撤退して欲しい限りだよ」
「と、言うことは密かにクーデター派を応援してる訳か?」
男は、袋に盛られたリンゴと引き換えに銅貨を売り子に渡しながら聞いた。
「ああ、そうさ。もういい加減、あんな気持ち悪いアルザスのじいさんよりも、渋い赤髪のジキルに街を仕切って欲しいね〜。」
売り子はひそひそと呟いた。