キョウアイ―狂愛―
耳をふさいだクレアの肩をジキルが抱き寄せ、緊迫した声でこう言った。
「クレア追手が来た。逃げるぞ」
―――追手
ハッと息を飲むクレア。
ジキルに抱えられるようにして外に連れられると、子分達が馬を小屋の前に用意していた。
「さ、お頭、クレアさん早く」
言葉を交わす間もなくジキルが馬の上にクレアを放り投げ、自らも慣れた様子で股がる。
「なるべく固まるな。分散して逃げろ。
戦って勝とうなんてぜってぇ考えるな。
逃げ延びたらいつもの集合場所に集まれ。いいな?」
それだけ指示を出すとジキルは、馬の腹を強く蹴った。
馬は弾かれたように山道を駆け出す。
クレアとジキルの馬の周りを取り囲むように数人の部下が、同じように馬に乗り駆けている。
大粒の雨が容赦なく振り付け目を開く事さえ困難だ。
顔をぬめらせるのは馬の足が弾くぬかるんだ土か、雨水か……。