甘い魔法②―先生とあたしの恋―
部屋に戻り、シワになったスーツにため息をつきながらハンガーに掛けて、バスルームに入る。
……建てられてからかなりの年数が経つこの寮の場合、浴室と言った方が正しいのかもしれない。
この寮に横文字なんか似合わねぇし。
木造立てのボロボロの寮は、お世辞でも住み心地がいいとは言えない。
軋む階段に、どう考えたって傾いてる床。
神経質な俺にとって、譲れない欠陥ばかりが目を引く。
それでもこの寮に住むのは……、もちろん家賃の関係もあるけど。
その理由多くは、隣の少し生意気な生徒が占めていた。
市川がいるから、この欠陥寮も悪くないと思えて、居心地のいい場所に変わる。
帰ってきたい場所に変わる。
……ハズだったのに。
2人にとってどこよりも大切なこの場所が、心の底から帰りたくない場所に変わってしまったのは……、
この後、すぐだった。