甘い魔法②―先生とあたしの恋―
漆黒のかけら
「失礼しまーす」
聞こえてきたのは男の声。
市川だと思った俺と瞬は、揃ってドアに視線を向けた。
「あれ、矢野セン? ああ、そっか。坂口先生と腐れ縁なんだっけ」
入ってきたのは、今日授業した生徒。
学習室常連の澤田と仲のいい、岡田っていう生徒だった。
そして。
「坂口先生、保健だよりのファイル結構いっぱいあって……あれ、先生」
岡田に続いて入ってきたのは、市川。
両手にいっぱいのファイルを抱えた市川は、俺を見るなり少し驚いた瞳を見せたけど、視線をすぐに瞬に移す。
そっけない態度を視線で追うと、市川は瞬に笑顔を向けた。
学校では、俺に決して見せないような笑顔を。
「坂口先生、過去の保健だよりのファイル、16冊もありましたけど」
「え、そんなにあるの?」
「ありますよー。俺がいなかったら市川先輩が何往復もしなきゃならないくらいありましたよ」