甘い魔法②―先生とあたしの恋―
校舎を出るとすぐに、遠くから声援が聞こえてくる。
スピーカーから流れる実況を聞くと、プログラム中盤あたりの騎馬戦が行われてるようだった。
「ハル兄さー、最初施設に来た時、夜になると毎日毎日玄関で突っ立ってたんだ」
グランドに戻る途中、前を歩いていた坂口先生が突然言った。
さっき坂口先生が一瞬見せた沈んだ顔が気になって、ぼんやりと地面を見つめながら歩いていたあたしは、その言葉に顔を上げる。
「……先生が?」
「そう。毎日毎日」
坂口先生は、振り返らないまま空を仰いで続ける。
7月の空は水色に晴れ渡っていて、朝はなかった白い雲が、ところどころにちぎれたような形になって浮かんでいた。
時折吹く柔らかい風が運んできたのかもしれない。
「最初はなんでだか分からなかったけど……、後から母親を待ってたんだなって、なんとなく気付いた。
ハル兄は聞いても絶対に言わないだろうから、本当のところは分からないけど。
数ヶ月間そうして……気付いた時にはそんな姿見なくなってたけどね」