甘い魔法②―先生とあたしの恋―
坂口先生の声は、いつもと同じモノなのに。
内容が内容なだけに、まったく違ってあたしの耳に届く。
小さい頃の先生なんか知らないし、写真だって見たことないのに……。
立ってお母さんを待っている先生の後ろ姿が浮かぶようだった。
グランドから聞こえてくる声援に紛れる事なく、あたしの耳は坂口先生の声だけを拾っていた。
「ガキなんかさ、自覚なんかなしに、当たり前に母親の事を信じてるんだよ。それを裏切られて、それでも信じて待ち続けて。
ハル兄は、数ヶ月してそれを諦めたんだ」
聞かされる内容が、胸を張り裂けそうなほどに苦しくする。
『諦めたんだ』
重くのしかかる言葉。
ずっと信じていた事を、無理だって諦めた先生。
その時の先生の気持ちを思うと、苦しくて苦しくて……。
無理だって分かっていても、子供の先生を抱き締めてあげたくなる。
『あたしがいるから』って、涙が出そうになる。