甘い魔法②―先生とあたしの恋―


あたしには想像もできない先生の過去。

先生が決して口にしようとしない心の奥にある傷が、少しだけ見えたような気がして……。

それだけで、胸が裂けるみたいに痛かった。


何も言えずに黙っていると、坂口先生は独り言みたいに続ける。


「だからハル兄はこれから先、誰かを信じる事ってないんだと思ってた。

後から裏切られるかもしれないっていう思いから、誰かを心から大切に思う事もないって思ってたのに。

……本当に意外だった」

「……彼女がいる事がですか?」


聞くと、「そう」と頷いた坂口先生があたしを振り向く。

そして、笑いながら言う。


「ハル兄はさ、カッコつけてクールぶってるけど本当は弱いんだよ。

傷つくのが嫌だから自分から距離を取るんだ。市川さんも、ハル兄といて一線引いてるって思った事ない?」

「……あります」


何度も何度も、そう思った。

初めて会った時から……、今も。





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