甘い魔法②―先生とあたしの恋―
その頃は、お父さんの事そんな風に言ってたのに。
『ノロケないでよ』なんて言ったら、恥ずかしそうに笑ってたのに。
なんでそれから1年もしないうちに家を出たんだろう。
やっぱり納得できなくて顔をしかめていると、お父さんが短いため息と一緒に言う。
「必死に頑張ってたのに……、そんな中でお父さんの協力が得られないんじゃ、誰だって気持ちが折れる」
「……お父さんは、お母さんに帰ってきて欲しいとは思わないの?」
『だから、お母さんが出て行っても仕方ないんだ』
そんな風に聞こえて、思わず聞く。
強がってるんじゃないのかな、なんて思ったから。
最近まで気付かなかったけど、あたしの強がりな部分は、多分お父さん似だ。
仕事が忙しくても、お母さんにもあたしにも、弱音を言ったり愚痴を言ったりした事がなかった。
いつもひとりで闘ってた。
小さい頃から見てきたお父さんの背中に向かって、何度も思った事がある。
『いっつも仕事ばっかり!』って。
今だったら、そんな文句じゃなくて、『お疲れ様』の一言もかけてあげられるのに。
自分がなるべく人に頼らないで突き進んじゃう事を知ってるから。
だからこそ、お父さんの頑張りが歯がゆく感じる。