甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「そう聞いたから……、だから、諦めようと思いました。
矢野先生、その子が本当に大切だって言ってらしたから、私がつけ入るような隙間なんてないんだって思って……」
「……大切ですよ。馬場先生、その話ならもう……」
「――――でも、まさか相手があの子だなんて……。
矢野先生、正気ですか?」
片手で額を押さえてげんなりとしていた時。
突如耳に飛び込んできた馬場先生の声に、一瞬時間が止まる。
『あの子だなんて……』
まるで相手が誰だか分かっているような口ぶりをされて、ゆっくり視線を上げた。
キっと睨むように俺を見ている馬場先生に、わざと笑顔を作って首を傾げた。
「正気も何も……、言っている意味がイマイチ分からないんですが」
咄嗟の誤魔化しが通用するとは思ってない。
だけど、馬場先生が勘を頼りにこんな話をしているなら、自分の思い違いだって思ってくれるかもしれない。
でも、そんな甘い考えは、馬場先生の険しい表情に可能性をなくしていった。