甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「だって、先生の事生んでくれたお母さんだし、嫌ったりしたくないのに……。
先生にそんなひどい事言ってたなんて聞いちゃったら……むかつくし。
許せないとか思っちゃうし」
不貞腐れたように言う市川。
一瞬呆気に取られた後、笑いが漏れた。
そんな俺を、市川は不満そうな顔で見る。
「なんで笑うの?」
「だって、なんか可愛い事言ってるから」
「……だって、むかつくでしょ。そんなの。
先生がいくら気にしてないって言ったって、あたしは先生がそんな事言われてたって知って嫌な気分なのっ!
ついでに言えば、平気な振りして笑ってる先生も嫌」
「……すみません」
それでも収まりそうにない笑みを我慢しながら謝ると、まだ不貞腐れてる様子の市川は、俺を睨むように見つめる。
そして、目を伏せてからぽつりと言った。
「いっその事、泣いてくれたっていいのに……」
その表情が、あまりに悲しそうで切実だったから、瞬間、言葉を呑む。
泣いてくれたって、って……俺が泣くのを市川はそんなに切望してるとも思えないけど。
だけど、心を打つような表情は、いつまでも俺の頭から離れようとしなかった。