甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「なんだよ。実姫だって『ハル』って呼んでるくせに。
矢野センの前じゃ呼べないんだ? 本当に実姫は恥ずかしがりやだよな」
「……和馬、もう帰って。帰って吉岡さんに捕まってめちゃくちゃ責め立てられてきて」
「なんでだよ。おまえが素直になれば、ハルくんだってもっと……」
「悪いけど、なってるしっ! 今までないくらいに頑張って素直になってるのっ!
それでもどうにもならないから迷ってたんでしょっ!
ほら、帰って!」
あたしと和馬が子供のケンカみたいな事を言っている間、先生は何も言わなかった。
いつもの席に座った先生は、冷蔵庫から出したビールを飲んでいて。
たまにしか飲まないお酒と、やけに静かな先生が気になりながら、あたしは和馬を寮から追い出した。
パタン、と音を立てて閉まったドア。
鍵をかけて、しばらくそのままドアと向き合う。
振り返れば、すぐに先生との時間が始まるから。
決して嫌なんかじゃないのに。
なぜだかざわめく胸に、呼吸と気持ちを整えてから振り返った。