甘い魔法②―先生とあたしの恋―
【第七章】
迷路の先
【矢野SIDE】
―――傷ついた顔してたな。
一年前。俺に嘘ついて別れを切り出した時。
あの時だって、もっと気持ちを隠してたのに。
涙を零しながらも、必死に手を握り締めて耐えてたのに。
さっきの市川は、今までで一番、感情を表情に出してた。
ショックで……今にも泣きそうな顔をしてた。
『俺がつらいんだ』
そんな事を言ったから。
……言葉だったら簡単に嘘つけるって言ったばっかなのに。
「真面目に受けとんなよ……。俺の言葉なんか」
ベッドに仰向けになりながら呟いた独り言が、やけに寂しく聞こえる。
市川は、まだ部屋には上がってこない。
食堂で泣いてるんじゃないかって思うと、いてもたってもいられない気持ちになる。
その原因が俺なら、それは尚更。
……―――だけど。
このまま一緒にいたって、市川にとってはマイナスになるだけだ。
自分の事だから、俺が一番よく分かってる。
正気じゃない行動も、許されない狂気も……。
市川への、強い想いも。