甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「ちょっと距離取るつっただけでコレかよ……」
一生の別れを決意したわけでもねぇのに。
あの時の市川は、きっともっとつらかったハズなのに。
たった一時(いっとき)離れるって決めただけのハズなのに……。
それでも、喉の奥の痛みは引きそうもなくて、呆れて小さな笑みすら零れた。
ずっと、傍にいたいから。
市川を手離すなんて、出来ないから。
だから……、
今の状態の俺じゃ、ダメなんだ。
確実に市川を追い込んで、最悪の場面を実現させる今の俺じゃ。
引き下がる事のできる今、離れておかないと……。
これ以上追い詰められて、離れる事さえできなくなってからじゃ遅いから。
「くそっ……なんで今さら……」
母親との過去の出来事ばかりが頭に浮かんで、猜疑心や不安ばかりを掻き立てようとする。
暗く淀んで(よどんで)見えない気持ちの中心部。
ドロドロとしたまま浄化しないそれに、また鋭い痛みが走った。