甘い魔法②―先生とあたしの恋―
里子さんのいれてくれた紅茶の、ほのかな甘みを含んだ香りが部屋を包みこむ。
それが寮の食堂を思い出させて、自然と気持ちが沈み出す。
「……うまいね、コレ」
「でしょう? レモンだとかミルクを入れなくても、すごく美味しいのよ。
やっぱり高いと違うのかしら。
あ、分けてあげるから、少し実姫ちゃんに持って行って?」
「いや……あいつは、ティーパックと葉っぱからいれた紅茶の区別はつかないと思うから」
以前、味の違いが分からない市川をからかった事を思い出して、頬が緩む。
『今日のコーヒー、微妙に味違くねぇ?』
『え、そう? いつものだけど。新しいの開けたからじゃない?』
『いや、絶対違うだろ。なんか後味とかが』
『同じだってば。だって、あのコンビニで売ってるのはいつも同じ……』
棚を開けてコーヒーのビンを手に取った市川はそこで言葉を止めて。
『……違ったみたい』
首を捻りながらそう答えた。