甘い魔法②―先生とあたしの恋―


里子さんのいれてくれた紅茶の、ほのかな甘みを含んだ香りが部屋を包みこむ。

それが寮の食堂を思い出させて、自然と気持ちが沈み出す。


「……うまいね、コレ」

「でしょう? レモンだとかミルクを入れなくても、すごく美味しいのよ。

やっぱり高いと違うのかしら。

あ、分けてあげるから、少し実姫ちゃんに持って行って?」

「いや……あいつは、ティーパックと葉っぱからいれた紅茶の区別はつかないと思うから」


以前、味の違いが分からない市川をからかった事を思い出して、頬が緩む。



『今日のコーヒー、微妙に味違くねぇ?』

『え、そう? いつものだけど。新しいの開けたからじゃない?』

『いや、絶対違うだろ。なんか後味とかが』

『同じだってば。だって、あのコンビニで売ってるのはいつも同じ……』


棚を開けてコーヒーのビンを手に取った市川はそこで言葉を止めて。


『……違ったみたい』


首を捻りながらそう答えた。



< 374 / 458 >

この作品をシェア

pagetop