甘い魔法②―先生とあたしの恋―
強い口調で言われて、背筋が伸びるみたいに感じた。
「貴方の思いを知ったって、実姫ちゃんは離れていったりしないでしょ?
ベタ惚れだって、自惚れてたじゃない」
諭すように話す里子さんの声が、身体の中に吸収されていく。
そして、最後に茶目っ気たっぷりに笑った里子さんに、自然に笑みが零れた。
市川とこれからもずっと一緒にいたいなら。
怖がって距離を置くんじゃなくて、俺の気持ちをぶつける事が大事だったのかもしれない。
中途半端に気付かせて、それでも俺の言葉を待っててくれた市川を、笑って誤魔化すんじゃなくて。
汚れていて弱い一面を、受け入れてもらえる努力をするべきだったのかもしれない。
ただ、市川の瞳からも、自分の気持ちからも逃げ回ってた。
今を変える努力を怠る俺に、『幸せ』なんて落ちてこないのは……、当たり前だ。
「はぁ……。すっきりした。
貴方がこの施設にいる頃からずっと言いたかったの。
貴方は全部を隠しとおせるほど器用じゃないくせに、一人で我慢しすぎるから」
「……面倒かける息子ですみません」
里子さんが笑う。
長い長い迷路。
ずっと誰にも答えを聞くことなく一人で彷徨っていたそこに、小さな光が見えた気がした。