甘い魔法②―先生とあたしの恋―

溢れる愛しさ



17時55分。


俺は寮のドアの前で立ち止まっていた。


鍵は手の中にあるし、鍵を開けてドアを開けるのに10秒もかからない。

毎日繰り返しているし、無意識でもできる行動。


……なのに。

その向こうに市川が待っていると思うと、身体がなかなか動かない。


腹のうちをさらすって決めたのに。

それに対する反応よりも、今までの俺が取った態度に対する市川の思いを聞くのが怖かった。


昨日の夜から市川は明らかにいつもとは違う行動を取ってるし、今日の遅刻なんて普通だったらありえない。

それに、体調不良っていうのも嘘だとしか思えない。


そう考えると、市川を遅刻させた理由は―――……。


いい意味でも悪い意味でも、自分以外に考えられなかった。

悪い意味の場合を考えると、びびってなかなか寮に入れない。


それでも、きつく握っていた鍵をなんとか鍵穴に差し込もうとした時。

鍵が中から開けられた。



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