甘い魔法②―先生とあたしの恋―
誰の手も壊せなかった壁が
もう傷つきたくなくて張った予防線が
市川の言葉に、静かに崩れていくのが分かった。
「……ごめん、市川。
不安にさせて、本当にごめん……」
座ったまま頭を下げると、市川は少し黙る。
でも、まだまだ言い足りないようで、怒りのこもった声を俺にぶつける。
自分の情けなさを痛感しながらも、嬉しく感じてしまう言葉を、今までもトーンの上がった声で言う。
「大体、『俺がつらいから』なんて……なにそれ。
先生がつらいならあたしだってつらいよっ!
それでも一緒にいられれば少しは減るのに……。
離れてたら、もっともっと……ずっとつらいでしょっ」
「……はい。本当にごめん」
「先生がつらいなんて知らないっ。
あたしは、どんなヘタレだって、先生といたいんだからっ!」
「ヘタレって……まぁ、ヘタレか」
「別に、先生が一人で悩みこんでずっと乗り越えられなくたってあたしはいいもん。
つらいとかそういう気持ちを話したくないなら、一生話さなくたっていい。
一人で根暗になってたって、いじけてたって、別にいいもん……っ!
どうしょうもないなーって思ってたって、落ち込んでヘタレてる先生の隣にいられれば、あたしはそれでいいんだからっ!」