甘い魔法②―先生とあたしの恋―
里子さんにも、だなんて、意外な発言だった。
顔を上げて先生の横顔を見つめる。
微笑む表情が歪められた気がして、先生の手に自分の手を重ねた。
それに気付いた先生は、重なった手を見つめて微笑んだ。
「たまに……本当にたまにだけど、母親が俺を置いて行った日の事が鮮明に頭に浮かんで……。
俺の周りの人間がみんな離れて行くんじゃないかって錯覚に陥る時があるんだ。
大切なモノほど、簡単に離れていくんじゃないかって。
そん時だけは、どうしても冷静でいられなかったりしてさ」
「今はもう大丈夫だけどな、大人だから」なんて付け足して笑う先生に、あたしは上手く笑えなかった。
正直、先生が話してくれた事は、ほとんど予想してた通りだった。
きっとそうなんじゃないかなって、思ってた通り。
……なのに、先生の口から聞く言葉は、予想以上の苦しさを伴って耳に届く。
先生の声で告げられた言葉は、先生の過去っていう重みを背負って、あたしの中に落ちていく。
まるで、鉛みたいに重く。