甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「ゴキブリって試練を一緒に乗り切った彼と盛り上がったからじゃなくて?
よく言うじゃん。そういう絶体絶命的は場面を共有した男女は……」
「違うから。……大体、掃除でくたくたでそれどころじゃなかったし。
あっちは歳だし……いたっ」
突然頭を叩かれて振り向けば、そこには苦笑いを浮かべた先生の姿があった。
「あ、」
「誰が歳だよ」
「やだー、矢野センってば。実姫の彼氏の話だってば。
別に誰も矢野センが歳だなんて言ってないって」
『あたしの彼氏=先生』を知りながらの諒子の言葉に、笑いながら頷く。
「そうそう。あたしの彼氏の話だから」
「なんだ、市川の彼氏の話か……なのに気に入らねぇのはなんでだろうなぁ」
まだ苦笑いを浮かべたままの先生は、納得いかなげに呟いてからあたし達を追い抜く。
そして、前にいる生徒と挨拶を交わしながら廊下を歩いていく。
土曜日、寮に帰ってきてからは施設の話は一度もしていない。
秋穂ちゃんが言った事を、先生は気にしてないのかな……。
それとも、あたしを気遣って話題に出さないのかな。