甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「おまえ、今から写真撮るのに泣くなよ」
「卒業式だもん。泣いてたって普通でしょ。
っていうか……、“矢野実姫”って、名前短すぎ」
涙を隠すために、憎まれ口を叩く。
先生は吹き出すみたいに笑った。
「じゃあ俺が市川ハルキになってもいいけど」
「……やだ」
「なんで?」
目の前に立つ先生が、握ったままのあたしの手を撫でるように親指で触る。
くすぐったく思いながら、笑みを浮かべている先生を見上げた。
「あたしは、先生の“矢野家”に入って、新しい家庭を築きたいから。
あったかくて、いつも先生が笑顔でいられるような場所を、先生の中に作りたい」
いつもなら恥ずかしくなるような言葉。
それを言えたのは、この間のケンカがあったからかもしれない。
気持ちを素直に伝える事がどれだけ大事か、分かったから。
先生は苦笑いにも取れるような微笑みを浮かべた。