甘い魔法②―先生とあたしの恋―
「いつか、野良猫が施設に入り込んだ事があったろ。
おまえがこっそりエサやってた茶色のミケ猫。
それを見つけた施設の子達がみんなして猫を囲んで……その時のおまえを見て気付いた。
おまえが、あの猫を誰にも触られたくなかったんだって。
誰の目にも触れさせたくなかったんだって。
普段一緒に過ごしてる施設の子相手なのに、不機嫌に顔を歪めて……、だけど必死で冷静を保ってた。
よほど可愛がってたんだろ」
「……さぁ。忘れた」
「あの時、思った。おまえ自身が気持ちを止められなくなった時、どうなるのかって。
あの時は猫だったけど、あれがもしも特定の人間だったらって思うと……正直、少し怖くなった。
おまえの心の奥にある、強い独占欲だとか執着心が見えた気がして。
いつもは何に関しても無関心だっただけに、余計に……。
だから、ハルキ……、」
俺が浮かべた苦笑いに気付いた昌じぃが言葉を止める。
心配そうに見てくる昌じぃに微笑んだ後、視線をグラスの中の丸い氷に落とした。
「よく分かってるよ。……嫌んなるくらいに」
アルコールの中へと溶けだしていく氷が、形を崩してカランときれいな音を立てた。