甘い魔法②―先生とあたしの恋―


「えっと……母が急に出て行っちゃって、普段仕事ばかりで家になかなか帰れない父がここに預けたんです」

「……ひどい話だね」

「あ、いえ。……今は父ともちゃんと話し合ってるし、母も少し疲れてたみたいだから……。

あたしも色々見えてなかったモノもあると思うし、仕方ないのかもしれないって……」


先生と坂口先生に気を使わせたくなくて強がった言葉を付け足したのに、結局それを最後まで言う事はできなかった。

続く言葉は、『思ってる』じゃなくて、『思えるようになりたい』。

つまり、まだそんな事思えてないって事だ。

まだ、あの一件を全部納得して受け入れられてはいない事が自分でも分かって、少しだけ気分が落ち込む。


何も言えなくなって言葉を途切れさせると、坂口先生は少し黙ってから再度あたしを見る。

笑ってるのに少し怖く見えるのは……、あたしの気のせいなのかな。


「市川さんは、なんだかんだ言っても大切に育てられたって事だね」

「……―――え?」

「だからそんな風に考えられるんだよ。なんていうか、考えが甘えて……」

「瞬、やめろ」


今まで傍聴していた先生が止めに入ると、坂口先生はさっきまでの明るい笑顔に戻る。



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