鳥籠
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今日は帰りたいから、と、彼は帰ってしまう。
目にかぶさった栗色の髪は、さらさらと揺れていた。
もっともだよね。帰りたいなら帰ったら良い。
でも、一瞬ぽかんとして、その背中を見送ってしまう。
「どしたの、朱」
片付けを終えてリハーサル室から出てきた柚莉が、あたしの肩を叩いた。
「あれ? アキヒロもう帰っちゃった?」
「うん…」
「ご飯行こう! って言っといてくれた?」
別にあたし一人が誘う予定だったわけじゃない。
メンバーみんなでファミレスでも行こうという話しを、たまたまあたしが代表して誘ったのだ。
断られてしまった。