鳥籠
彼の顔をじっと見つめる。
でも、やっぱり名前はわからない。
週に一回くらいは会ってたオトコのはずなのに。

頭がぼんやりする。

彼は不思議そうにあたしを見てる。
その茶色く透き通った瞳を覗き込んでも、名前なんか思い出せない。

名前がない。

ここは、鳥籠の中なんだ。

彼は、鳥籠の鉄格子なんだ。

「向こうに、行きたいよ」
「向こう?」

名前がない。

彼には名前がないんだ。
思い出せなかったんじゃない。
彼らには、みんな、名前がないんだ。
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