鳥籠
「なに? 汗かいて」

そう言って、くすっと笑った。

「笑いごとじゃないでしょ! 何で途中で帰っちゃうわけ」

さあ、と呟いてまた歩き出してしまう。
毎日走ってる柚莉とは違って、あたしが走るなんてありえない。
もつれる足で、アキヒロの後ろをついていく。

アキヒロも気付いて、ちらっとだけあたしを振り向く。
でも、そのまま歩き続ける。

あたしは、黙ってついて行く。

どれくらい歩いたんだろう。
古いアパートの玄関口で、やっと彼は足を止めた。
あたしも立ち止まる。

アキヒロの目が、あたしを見つめてる。
何も言わず、なにも伝えず。
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