鳥籠
ある日気付いたら、周囲があたしをちやほやして可愛がってた。
あたしにとって必要のない人間は、気付いたら消えていた。
自分で身辺整理みたいなことはしたことがない。

ロビーのソファに座り込む。
口を押さえて、目を閉じる。

何をしたら、いいの?

まぶたの裏の暗闇だけを見つめ続けても、答えは見付からない。
籠の向こうには、何があるんだろう。
あたしのこの狭い空間には、ないものばっかりだ。

「…朱?」

不意に名前を呼ばれて、はっとしてその主を見上げる。
強く目を閉じすぎていたから、ちかちかしてよく見えない。
…でも。

「……アキヒロ…」

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