鳥籠
アキヒロも、それくらいあたしのことを知らない。

空き空間は、やっぱり彼の場所だったらしい。
彼はそこに座ってビールを飲みながら、近くに転がっていたテレビ雑誌をめくっている。

それを、ただ眺めていた。
髪がはらはらとこぼれおちる様子。
ページをめくる手つき。
行を追う瞳の動き。
まつげがかすかに揺れてる。

そうするうちに、外は日が暮れかけていた。
やっとあたしのことを思い出したみたいに、アキヒロは顔をあげた。

「…なに?」
「案外、無口だね」
「そんなことないんだけどね」

戸惑いながら、そう返す。
人が話さないのに、わざわざ話題を出して盛り上げるほど話し好きじゃない。
それより、彼の横顔を見ていることが大事だった。

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