鳥籠
急に現れたあたしの名前を呼ぶのは、多分、うちらのファンの女の子。
でも、何だか遠く聞こえる。
あたしが熱帯魚だったら、こんなふうに聞こえるのかな。

大きく深呼吸をして、どうにか思考回路を復旧させる。

まだ、出番には時間がある。
着替えもメイクも、後で大丈夫。
一応、そんなことだけは考えて、なるべく人気のなさそうな方へ歩いていく。

「バッ…カみたい……」

胸が苦しい。

それは、激しいものではなくて、ベルトの穴を一つきつく締めた程度の軽い痛み。
でも、それは結構耐え難くて。

片想い。

なつかし…。
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