戦火のアンジェリーク
1.Australia
序曲 ~ 望郷
『故郷』と聞いて、人は、何を思い出すものなのでしょうか? 育った家、家族、土地、料理、子供の頃の自分……
懐かしさと共に郷愁の思いを馳せ、『そろそろ帰りたいな』と、躊躇いなく願える場所。赴けば、いつでも温かく迎えてくれる場所。
そんな存在がある人は、おそらく幸せなのだと思います。そういう意味なら、私も幸せなのでしょう。
ただ、どれにも、誰かの面影はありませんでした。
澄み切った青い空、綿菓子みたいな白い雲、ターコイズグリーンに染まった大海。緑薫る広大な草原。
色鮮やかなオウム、愛らしいコアラ、突風のように走るエミュー、大地を跳ねるカンガルー…… 私が育った地と、友達でした。
何処で生まれたのか知りません。産んでくれて、暫く暮らしたという、両親の顔も覚えていません。
この自然豊かな国の片隅に在る、美しい海と隣接する田舎町が、私の故郷でした。
地球上全ての生命の始まりで、生物に多大な恵みをもたらし、幼い頃全てを知っている、あの壮大な海が、私の――故郷。
――ただ、歌っていました。
いつもの海辺で、見知らぬ外の世界を夢見て、何かを求め、乞い、願いながら……