他校の君。【完】
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。お父さん」
照れまくるあたしの後ろをお母さんに『行ってくる』と言ったお父さんがすーっと通って行く。
その間に、お母さんにどう言おうかとぐるぐると考える。
「香澄?」
お父さんをリビングの中から見送ったお母さんがまた不思議そうにあたしに視線を移す。
「え?えーとね?」
両手の指と指を合わせてもじもじしながら、
「か、」
彼氏、と言おうとして、ひゃあーとまた照れてしまう。
そんなあたしをお姉ちゃんがニヤニヤしながら眺めている。
お兄ちゃんはニヤニヤしてなくて、どちらかと言うと温かく見守ってくれている。
「あのね?か、彼氏…」
ゴニョゴニョとだんだん小さくなって行ったけれど、お母さんはちゃんと聞いてくれていたらしい。
「彼氏?あら彼氏出来たの!?どんな子?あ、もしかして雪君!?」
彼氏と聞いた途端キラキラと瞳を輝かせ始めたお母さんを見て思う。
お姉ちゃんの性格ってお母さんそっくりだなって。
「雪じゃないよ。えと」
何で雪の名前が出て来たのか分からないけれど、どんな子?って聞かれてまず名前から言おうと口を開こうとしたら、
「香澄、彼氏来てるぞ」
玄関の方から聞こえたお父さんの声。
その瞬間、ビクリと身体を跳ね上がらせてしまった。