一枚の壁

生死





「でも生きてイギリスに行けるかな?
先週フランスから渡った船の多くが沈没してるらしいのに。」





「大丈夫よ。」





「今日までで一番信用出来なかったのは、生まれ育ったドイツだったでしょ?姉ちゃん。

僕は不安に押しつぶされそうだよ」








「今、不安だからって負けたらダメ。
お姉ちゃんも不安なの。
でも、赤ちゃんの為ルドルフの為に頑張るから…
ルドルフも逃げたらダメ」






「姉ちゃん…


そうだね。
生きなきゃ!

パパとママの尽力が無駄になっちゃう。」









「そうよ。
生きるの…


もしドイツ軍の攻撃で船が沈没したらお姉ちゃんを置いて泳ぐのよ。

この身体じゃ沈没したら助からないかもしれないから。

もしものときは自分の命を最優先させて。


お姉ちゃんを見捨ててもいいから。」







「わかった。

僕がそうなっても、姉ちゃんは逃げて。

生きて。

お互い約束だよ。」






「えぇ。」






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