一枚の壁
「イギリスからの電話だから、すぐに出たんだ。
ルドルフくん、どうした?」
「姉さんが赤ちゃんを産みました。
男の子です。
それをハンス兄ちゃんに伝えていただきたいんです…
僕と姉さんは覚悟を決めて亡命しました。
もう二度と、ドイツに帰らない…
ハンス兄ちゃんにも会わない…
姉さんはそのつもりです。
でも僕はこの赤ちゃんが父親を知らないのが可哀想で…」
「ルドルフくん。
イギリスからの電話を取るとスパイ容疑で告発されるかもしれない。
でも俺は怖くない。
ハンスには俺から伝える。
あと報告だが…
ご両親は無事だ。
お父上には電波暗号を読み取る仕事をしてもらってる。」
「両親が無事で良かった…」
「またこの時間に電話をくれ。
俺が生きていたらだが。」
「フリッツさん、死んでしまうの?」
「わからないさ。
戦争だしな…」