一枚の壁


















「ハンス!
どんな所なの?」





私は車の中で聞いた。






『秘密』



「なんで〜」




『言ったら面白くないだろ(笑)』



「え〜!?

わかった、じゃあ聞かない。


フリッツ大佐はお元気?」










『昨日、軍に休暇届を出しに行ったら

《ハンス、巧くやれよ
俺が後少し若かったら…》 なんて言ってたよ。


ブルジョワのお嬢様との縁談が沢山舞い込んでるのに、あの方は結婚する気がないんだ』








「なんで?
女好きなんでしょ?」








『大佐は、遊びで良いような女性としか寝ない。
結婚を迫らない、大佐を束縛しない女性としかね』








「どういうこと?」







『ここからは、兵舎での噂話だけど…

婚約者を病でなくしたらしい。

それからみたいだ、あんな風になったのは。


それまではまるで、今の俺みたいだったらしいよ。


婚約者殿を
愛してたんだろな』










「だから人を愛せないのかもね…

前に会った時、大佐の目は笑ってなかったもの。」







『ところで、フェルディナンドとはどうなってるんだ?』




「何もないわ…」





『ほんとに?』





「えぇ…」





『良かった。

フェルディナンドさ、君に本気みたいだから…

俺、怖くて』




「大丈夫よ」








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