一枚の壁
私達は近所のカフェに向かった。
ハンスお兄ちゃんは、サッと私の前に立ちドアを開けてくれた。
当たり前の事だけど、あまりにスマートだから遠くに感じる…
『クリスティーナ、何にする?』
「何にしようかな…
ハンスお兄ちゃんは?」
『ベーカリーセット。
コーヒーブラック』
「じゃあ、私もそれで!
飲み物は…」
『ベリージュースだろ?』
「何でわかったの?」
『クリスティーナはここのベリージュースが大好きだから。
お前の事なら忘れないさ(笑)』
「ハンスお兄ちゃんは優しいね!」
ハンスお兄ちゃんの顔が曇った。
『あのな、もう俺はお前の兄さんじゃない。
ナチス・ドイツの軍人で…
一人の男だ。
だから、クリスティーナにも男性として見てもらいたい』
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