Ⅹ(クロス)
教会の修道女たちが厳かに賛美歌を歌い始めた。


リディアは、母アーリアの隣で静かにそれを聴いている。


神父の祈り、様々な要人からの哀悼の言葉・・・式は静かに、けれど確かに、進行していった。




最後に、フェルナンドがゆっくりと席を立つ。


国王の双子の弟であるフェルナンドは、日頃その姿を目にすることのない民衆には“国王アルフレッド3世”としか映ってはいない。

フェルナンドは一つ一つ言葉を選びながら、ラドニアの国王として話し始めた。




「今まで、私は間違った選択をしてきたのかもしれない。

私は今まで他国との争いを避け、平和を望み、国民の幸せだけを考えてきた。

しかし、今の国民の幸せは、豊かな経済の上に成り立っているもの。

すなわち、このラドニアの国民が、亡きフェルナンドの指揮のもと、戦って勝ち得てきたものに他ならなかったのだ。

そして、そのフェルナンドは生前、豊かな経済の為には、他国と戦う必要さえあると言っていた。

戦わずして得られる富など、無いのだ。」




会場から、ざわめきが起こる。



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