Ⅹ(クロス)
アーリアはその白い手のひらをリディアの右頬にそっとあてて、微笑んだ。


「キャサリン先生が先ほどからお待ちよ。」


「あ! 忘れていたわ

“王国の歴史”の授業!
お母様ありがとう!」


リディアはあわただしくその場を片付けると、スカートを翻してドアから出て行った。


後に残ったアーリアは、窓際に立ち、ラドニアの首都リゲルの街を見下ろした。

緑の木々は、王宮の周りにわずかに残されるのみ。

川も閉ざされ、空も透明さを失いかけている。

ただ遙か彼方に見えるカルディナ海峡だけが、沈みゆく暖かい陽の光にキラキラと輝いていた。


(もうそろそろ リディアにあの事を話さなくてはならないわ・・・。)


アーリアは、胸の奥に底知れぬ不安が湧き上がってくるのを感じていた。



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