Ⅹ(クロス)
「ほら! あんた達もあんなガラクタの事はいいから、早く中に入りなさい!!

リディアさんが陽に焼けてしまうでしょ?」


「ガラクタって・・・」

そう言いかけて、カラスはちらりとリディアを見る。

真っ白い肌が陽に照らされて眩しいくらいだ。

「はいはい・・・。」

カラスはそう答えて母の後に続いた。



リディアは嬉しそうに微笑みながら行きかけて、ふと思い出したように、後ろを振り返る。


高台に建つカラスの家の庭先からは、積み木を並べたように建ち並ぶ暖かいレンガ色の屋根の家々が見渡せる。

その向こうには紺碧に輝くセルシオ海、そしてその先にはラドニアのあるビブロ半島の影が細長く浮かんでいるのが微かに見えた。



リディアの脳裏に突然、美しいプラチナブロンドの髪と深い慈愛に満ちた蒼い瞳、そして か細くも温かい掌の感触が甦る・・・。



「お・・・母・・様・・・・・」


リディアの口から零れたその言葉は、リディアの胸の中に新たな感傷を生み、それを増幅させていく・・・。


リディアの目からは、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。



「ほら、行くぞ。」

ユウリは通りすがりに大きな掌でリディアの肩をポンポンと叩くと、視線を前に向けたままそう言って扉の中へと姿を消した。

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