Ⅹ(クロス)

「今から16年前、シュラムの村に、一人の女がいました。

女は、シュラムの村の中でも腕利きの機織女で、女の織る布は強い癒しの力を持っていました。

女は、薬師の夫と6歳の息子の三人で慎ましく暮らしていましたが、ある時から不思議な事を口にするようになりました。」


「不思議な事?」


「大地の声が聞こえる・・・と。」


「大地が何と?」


「大地は、『精霊の住む場所へ行け』と言っていたのです。」


「ジプサムのある場所へか。」


「夫も、息子も初めは大方夢でも見ているんだろうと思っていました。

でも、何かに取り憑かれたかのように話す女を見ているうちに、それがただの夢ではないと思えるようになったのです。

そして、ついに女をセシリア湖に連れて行くことにしたのです。」


「でも、あそこは聖なる力で守られていて、誰も近付く事は出来ない筈だ。」


「そう。

だから、きっとそこへ連れて行けば女が正気に戻るだろうと考えたのです。

夫も、息子も、女が元通りになる事を切望しました。

でも・・・結果は違っていました。」



「女は正気には戻らなかった。」


< 202 / 401 >

この作品をシェア

pagetop