Ⅹ(クロス)
「ええ。

女は、セシリア湖の周りに立つ、あの光の柱をするりと通り抜けると、その中へ入って行きました。

そして、戻って来た時には、彼女はもう夫の妻でも、息子の母親でもなくなっていたのです。

女はその腹の中に、一つの生命を宿していました。」


「何だって?! そんな事があるのかよ!!」


「そして、女は言ったのです。

『この子はラドニアの為に、ここに生を受けました。

この子をラドニアに連れていかなくては、きっと沢山の人々が不幸になります。

そうなれば、ラドニアも、そしてこのロトスも滅んでしまうでしょう。

だから、私はラドニアへ行かなくてはならないのです・・・。

行かなくてはならない・・・

行かなくては・・・

行かなくては・・・』と。


女は、もうその時点でかなり憔悴していました。

夫は、彼女の中の気を読んで、女の体力のほとんどが腹の子供に取られている事を知りました。

夫も、息子も予感しました。

ラドニアへ行ったら、女はおそらく死んでしまうだろう事を。

でも、女は行ってしまったのです。

嵐の夜に・・・、たった一人で、ラドニアへ。」

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